2009年6月2日火曜日

「経済学哲学草稿」

★★★★☆☆:素直に読むと面白い

■「経済学哲学草稿」カール・マルクス 岩波文庫

カール・ザ「資本論」・マルクスです。ここ10年ほど積ん読状態でしたが、このたび気合い入れて読んでみました。

いや意外に現代的。マルクスさん、すみませんって感じで。

この人熱いですね。しかも言うことはかなりまとも。「世の中金だけじゃないよね」「金に目がくらんでるとロクなことにならないよね」と常識的に(常識ですよね?ね?)考える人が当たり前に考えることを書いてます。例えば・・・

給料の額は常にサラリーマンより経営者側に都合よく設定される。
商品の価格が下がればまっさきにサラリーマンの給料が減らされる。
一方で商品の価格が上がってもサラリーマンの給料は増えない。
そして金持ちはどんどん資産を膨らませて行くし、一般のサラリーマンあるいは小金持ちはどんどん貧しくなって行く。
それっておかしいんじゃないの?どうよ?

全くその通りだと思うな。

高度成長期のときには鼻で笑えたかもしれません。でも今あらためて読むと、アレレこの通りだよと思ってしまいますよ。マジで。

産業革命の後、イギリスでは女性や子供が長時間、劣悪な環境で、低賃金で働かされていたらしい。生存のための最低限の賃金しか与えられず、当然住み家も食事もヒドイもの。売春して生活費を稼ぐようなことが当たり前に行われていたように読み取れます。翻って現代の日本。

若い正社員は数字を叩き出すために馬車馬のように働かされ搾取され続ける。サラ金に手を出して破産した主婦が売春している。儲けているのは一部の金持ちばかり。

マルクスの批判が当てはまるのもむべなるかな。多少強引ではありますが。

マルクスさんって別に夢のユートピア社会をとうとうと語った人ではありません。むしろ資本主義を研究して、それがいかに労働者から生活と人間性を奪い、下劣な資本家を増幅させるか警鐘を鳴らし続けたた人です。そして、マルクスに限らず、労働者の貧困と劣悪な環境を訴えていた学者が同時代にも大勢いたようです。つまりマルクスが特に異端だったわけではないってこと。

確かに彼の指摘は現代日本に直接当てまりません。例えばマルクスの時代とは異なり、単純労働者だけではなくドラッカーのいう知的労働者がかなりの割合を占めている。単純作業によってではなく、持っている知識とか頭脳によって成果を出す仕事が増えている。また法律によって子供を働かせることが禁止されている。となれば。どうせ子供を働かせることが禁止されているなら、子供をしっかり教育させた方が将来成果を出させることができる。

さらに知的労働者の生産性は人によって大きく異なる。人が貴重なリソースとなる。玉石混交ではあるものの、優れた人材は高い給与を出しても欲しい。

昔のように単純作業に弱者を従事させて、資本家が利益を享受するような構造はなくなり、より複雑な洗練された構造が出来上がっている。

そして労働者=一般消費者=市場というターゲットが出来上がっている。一方的に搾取されるのではなく、労働者の収入が好景気/不景気を左右する要素になっている。

だからマルクスはダメだ。古臭い。というのではないです。むしろ逆にマルクスの問題意識は常に有効だし、マルクスの「こうあるべきだ」という主張は常に振り返られるべきだと思います。

現代は、マルクスの描いた理想郷こそ実現しなかったのの(ソヴィエト・東欧の崩壊)、マルクスが指摘したような貧富の差の拡大・人間性の喪失・子供の減少という事象は一層拡大しているわけです。もちろん好ましいもんじゃない。どうしてそうなったのか、あるべき世界はどうなのか、というのを今一度考えようとしたとき、マルクスの熱い態度は大事だと思いますよ。ホントに。それにブータンだとかキューバって、人間がギスギスしてないっていうからね。やっぱ金ばかりじゃないんだよ。キレイごとじゃなくてさ。金金言うなよ。もう。ホントに。いい加減にしてくれよ。

#蛇足ですが日本共産党はビミョウだと思ってます。いい意味でも悪い意味でも品の良いインテリな新興宗教って感じですからね。いや、がんばって欲しいとは思いますが。

マルクス主義。バカにできません。・・・が、立派な思想が思考停止に短絡的に結び付くのもよくあること。それだけは要注意ってことで。

まあ、とにかく、以上。
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