★☆☆☆☆☆:ある意味面白いと言えなくはないものの、読む価値はない
引用6割、一般論2割という象牙の搭にいる人特有の論攷です。すなわち、いまいち。
人文系学者が何かを書くにあたっては、叙述の客観性を重視せざるを得ず、また人文系学問の客観性とは、取りもなおさず昔のえらい人がどこで(どの本の何ページで)何を書いたかということになるのは仕方がないのかもしれませんが、退屈だし内容も薄くなってしょうがない。哲学を語るに当たって客観性にとらわれるのもまた皮肉な話しです。結局哲学学者には自分の哲学は語れないということか。
気を取り直して続けますが基本的に内容が浅い気がします。
「単なる時間ならば自然界にも存在する」。故に時間それすなわち歴史ではなく「歴史はひとり我々人間にのみ存する事柄で」あり「単なる時間性から区別せられるべき歴史性の本質が(略)人間的なる物に求められるのは当然である」。
小難しい言い回しだけれども、あきれるほどの一般論。歴史は人間的なものです、と。あったりまえじゃん。
「歴史は理想主義的精神を俟って初めて成立するものである」
そうか?なんか素朴な思い込みっぽいぞ。そうじゃない歴史も考えられるんじゃないか?
そしてこの人は時間性に加えて空間性が歴史に影響を与える、と続けます。まあそれはいいとして、「日本人は地理的条件の影響を受け、民族憎悪の感情を持たず、好戦的でない」などと言い出すんですね。朝鮮の人が聞いたら呆れるんじゃないか?
それから「内的・主観的な時間と、物理的・客観的時間の根拠として歴史的時間がある」といってるのですが、一見もっともらしいものの、これもまた安直な考えだなあ、と思います。だから何だ?系のフレームワーク認識です。
田邊元などは「過ぎ去り必然と化して行く過去が流出し、未だ来ぬ未来が流入するという矛盾の成立する絶対無の場。それが時間の成り立つ現在である」旨のことを言っています。人間の実存と歴史性両者に開かれた優れた時間洞察だと思います。これに比べればこの本は浅い浅い。
以上。
0 件のコメント:
コメントを投稿