【この「プロジェクトの人間学」投稿シリーズは(後略) 初回投稿:はじめに(プロジェクトの人間学)】
トラブルの原因は、トラブル発生の後に分かる。「後になって分かる」それが実は「原因」という概念の本質的な属性である。あの判断が誤っていた。あのドキュメントをチェックすべきであった。全て後から作られる「物語」である(原因も結果も存在しない、ことは以前にも述べた)。
こういった「原因と結果」物語によって意識化された経験は、実を結ぶ時期の早い遅いはあるにせよ、その人固有のノウハウとして蓄積される。そのノウハウが次のトラブルの予知につながる。しかし性急な意識化はトラブルの予知能力には結び付かない。ある程度の熟成期間が必要である。方法論だけではトラブルを事前につぶすことはできない。「何か変だな」と気が付くこと、そしてその「おかしい」という感覚を言語化する能力が必要である。さまざまな予兆がある。誤った意思決定。問題の先送り。担当者が全く見落としている場合もあれば隠している場合もある。ある種のトラブルは不可避である。事前に全ての情報を得ることも、全ての可能性を検討することもできないから。早い話が「やってみるまでわからない」そういう状況が確実にある。だったらトラブルは起こって当たり前じゃないか。その通り。トラブルを許容しなければ、先に進まない。リスクも同様である。
全てのトラブルが不可避だなどと言っている訳ではない。予防できるトラブルがあり、マネージできるリスクがある。だったらそっちに注力したらいい。起きてしまった事は起きてしまった事である。しかるべき対応をとり、妥当な再発防止案を検討したらよい。
予防できるトラブルとは何か。それは事前にトラブルの予兆を知りえたトラブルである。からかっているのか。そうではない。一寸先は闇と昔から言うではないか。未来は未だ来ぬ故に存在しない。だから未来は分からない。だが将に来るべき将来なら分かることがある。どのようにして分かるのか。過去も未来も存在しないと前に述べた。すべてのヒントは現在にある。妙な流れに向かっているミーティング。本質から離れた論点で執拗に繰り返される議論。担保の取れていない不確定情報を垂れ流すメンバー。その不確定情報を元に意思決定されそうになっている。オーバーワークで深夜残業を繰り返すメンバー。すでにその品質に疑義がある。以上の事象は数字には決して現れない。すべてがトラブルの予兆である。その中のどれが実際のトラブルになるか。それはその時になってみなければ分からない。だが経験と勘がそれを助けることがある。筆者の経験では上の例はすべて明確なトラブルの前触れであり、後のトラブル発生は必至である。
筆者の妻が皿を洗う時、洗い終わった皿を水きりカゴにやたらと積み上げる。そんなに積んだら崩れるぞと何度も警告するのだがほとんど言っても無駄である。たいてい聞き流されるし、ひどい時には逆切れされる。何ヶ月かに一度、皿の山が崩れ妻の悲鳴と共に皿が割れる。これもまた仕方がない。見る目が無かった。それだけの話である。「どうしてあの人と結婚したの?」これもまた因果律の本性を省みない、厳しい質問である。だってもう仕方がないじゃないか。
だから何とか我慢しようとしてみる。頑張ってミーティングの流れを補正しようとする。議論を本質的な流れに戻そうと頑張ってみる。不確定情報は「確認しろ」と指示を出す。意思決定ではなるべくリスクとコンチプランを検討する。それで上手く行くこともある。だが残念ながらすべてが上手く行くわけではない。所詮は人間のやることである。
また予兆を知ったとしても必ずしも手を取れるわけではない。明らかにオーバーワークのメンバーがいたとしても、コストがない、権限がないなどの理由で体力の投入ができない場合がある。その場合は今できることをできるだけ行い(例えばそのメンバーをできるだけ雑用から守るなど)、大きなトラブルが次のフェーズで発生するのを覚悟するほかはない。
PDCA(Plan Do Check Action)だけでは足りない。Planの前に問題に感覚的に気が付かなければならない。そして問題を正確に定義しなければならない。また最後のActionは余計である。事後作業が不要になるようにPlanし、念のためCheckして問題が無ければクローズである。だから正確にはFPDC(Feel Plan Do Check)である。PDCAで回るほどプロジェクトは簡単ではないし、悠長でもない。Feelとは、今現に何が起こっているのか把握することでもある。これは会議では把握できない。会議で把握できるのはこぎれいに抽象化された情報であり、生のデータではない。だから現場で実際に見る必要がある。
しかし残念ながらマネジメント層や顧客は、現場を見ても何が起きているのか分からない。不祥事を出す会社の役員が、現場を知らないのと同じである。現場を見ても分からないし、解釈もできない。だから現場から適切な情報も上がらなくなる。確かにシステムは余りにも複雑である。だがマネジメント層もなるべく低いレベルまで状況を押さえるべきなのである。
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