2008年8月6日水曜日

はじめに(プロジェクトの人間学)

※ この「プロジェクトの人間学」投稿シリーズは、昔私が出版社に持ち込んだ原稿からコピーしたものです。某出版社でページ数を増やすことを条件に書籍化の話を頂いたのですが、いろいろあって何となく立ち消えになってしまいました。しばらく音沙汰もないので、少しずつ投稿して行こうと思います。

はじめに
システム構築プロジェクトに関係するステークホルダーには3つある。
ひとつは顧客である。プロジェクトの品質を要求し、正しいプロジェクト運営を求める。
もうひとつはマネジメントである。技術的なことはほとんど分からないのだが(それゆえにこそ顧客とマネジメントが対等なのであるが)プロジェクトを管理しようとする。
もうひとつは現場である。「マネジメントではない」存在として定義されたメンバーで構成されている。

前者二つは「こうであるべきだ!」「こうでないのはおかしい!」と声高に叫ぶ。そして管理という名の雑用を増やし、プロジェクトの混乱を促進する。現場はコンピュータが産む理不尽なトラブルと、マネジメントならびに顧客からの要求に耐え、絶望的に、だが粛々と作業を進める。「だったらお前がやってみろ」という呪いの言葉を飲み込んで。

筆者は現場の人間である。現場の視点からいくつかプロジェクトに関する本を読み、ほとんどすべてに対して「ウソだろ?」と顔をしかめてきた。デマルコなど一部を除いて。世のプロジェクト本は、それぞれの著者の脳内プロジェクトシミュレーションを扱っているに過ぎなかった。生きたプロジェクトを扱っている本はどこにもないように思えた。

現実のプロジェクトを対象にしたものでも、やたらと数値化を利用してプロジェクトを分析いる。だが大抵の場合は脳内のプロジェクトモデルにデータを寄り添わせるために数値を利用したに過ぎなかった。その計測方法も欲しいデータを得るために恣意的な切り口で計測したものが多かったように思う。つまりは自らのプロジェクト観を補強するために数字をもてあそんでいるに過ぎない。

あるいは中には無用にプロジェクトの悲惨さを訴えるものがある。悲惨さをユーモアとするにしても、戯画化されすぎていて、中途半端である。別の本では著者の方法論があまりに完璧なので、注意して管理すればプロジェクトの失敗などありえない、と述べる。また別の本では訳の分からないプロジェクト進捗(リスク)定量化ソフトウェアを使え、と言ってくる。どれもこれも全く生のプロジェクトを扱っていない。

筆者は現場で働きながらプロジェクトを扱った本を読み「プロジェクトを一度現場の視点で定義しなおす必要があるんじゃないの」とぶつぶつと考えてきた。考えた結果がこの本である。中にはマネジメント層や顧客層からは容認しがたい記述があるに違いない。しかし、これは偽らざる現場感覚である。ソフトウェア工学でプロジェクトを計測し、評価した結果が真実であると主張するのと、同じ権利を持って真実と主張できると筆者は自負している。

マネジメント層や顧客に訴える書籍が多いのはある意味で当然である。何故なら彼らには金があるから。彼らに気に入る理論でなければお金儲けは難しいに違いない。教授たちやコンサルタントがプロジェクトをサンプリングし、数値化、分析する。そして「プロジェクトはこうあるべきなんです」とマネジメントや顧客に訴える。それもよかろう。しかし、筆者は現場の人間である。敢えて現場から見たプロジェクトの真実を書きたい。

この著作がほんの少しでも現場エンジニアの喝采を浴びることができたら、筆者にとってはこれほどうれしいことはない。

では早速だが、まずプロジェクトを二元論的な観点から見てゆこう。

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