【この「プロジェクトの人間学」投稿シリーズは(後略) 初回投稿:はじめに(プロジェクトの人間学)】
よいシステムとは顧客にとってのよいシステムである。もちろん開発者にとってよいシステムが顧客にとってもよいシステムであり得る。開発者のその気概は重要である。しかし最終的にシステムの良し悪しを判断するのは顧客であり、大抵の顧客はちゃんとそれが判断できる。故に常に顧客の立場を理解して協力して進めることが重要である。当たり前ではないか。そうだろうか。自分の会社の上司、社長と今自分が構築しているシステム、どちらが大事か。あなたにとって、会社のリアリティとシステムのそれは、どちらが強いだろうか。顧客にも上司がいてその会社の社長がいる。だが、あなたにとって顧客の上司や社長がどれほど大事だろうか。ホンネを言ってしまえば顧客の上司など大して重要ではないだろう。そこに壁があることに気が付く必要がある。
もちろん、上司に説明できないからという理由で変な意思決定をしそうな顧客にはちゃんと「その判断はおかしいです」と主張すべきである。顧客も短期的な面倒臭さを嫌って長期的なメリットのある意思決定ができないことがある。その判断はお客さんのためにはなりません。的確に発言できるようになると、顧客との関係も必然的に良くなってゆく。
またエンジニアも顧客のために働いているのか、上司のために働いているのか分からないようではダメである。マネージャーが絶対に正しいという訳でもない。顧客は何をしたいのか。顧客にはどのような目的がありどのような利害関係があるのか、そこにフォーカスを当てなければならない。
なぜこんな当たり前のことをことを繰り返し言っているかというと、顧客がエンジニアの味方になるかどうかによって、プロジェクト運営が全然違ってくるからである。顧客が味方になってくれると、一緒になってトラブル対応を考えてくれるようになる。トラブルに対して怒ったり絶望したりすることは無駄である、と前に述べた。顧客が絶望し怒る様子はまた格別にエンジニアの心に染み入るものである。しかし顧客と一緒にプロジェクトを進める体制ができると、その辺の消耗がずいぶん楽になる。当たり前のことを積み重ねるだけなのだが、実際にはなかなか難しいのが顧客との信頼関係の構築である。
それから顧客との関係が上手く行っていないと「敢えて悲惨な意思決定」が行われることが増える。要するにいじめである。お互いに(つまり顧客にとっても)あまり利益にならない、つらいだけの作業にGOサインが出る。あるいは明らかに手間が掛かるだけでメリットの少ない方向にプロジェクトが動き出す。このような悲惨な意思決定に向かう理由はいじめだけではなく、他にも優先付けの誤りや時間リソースの軽視というものがある。しかし顧客と良好な関係を持っていなければ、その意思決定を変えさせることは難しい。
信頼関係を構築するためにはさまざまなハードルを越えなければならない。プロフェッショナルとして業務知識・技術知識を備えておかなければならない。また一時的な成果物(報告書など)も、たまには相手を唸らせるものを出したい。普段のコミュニケーション、メールも大事である。当然ウソをついてはいけない。約束は必ず守らなければならない。このような当たり前の行為の積み重ね、これが信頼関係を産むのである。そして信頼関係の構築が難しいのはまさに当たり前の積み重ねが難しいからなのである。
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