★★★★★☆:歴史って面白い
26巻まで読了しました。次の27巻の手配が間に合わなかったので小休止です。
このシリーズを読み始めて最初のブログ投稿は、戦争に明け暮れる人間を嘆くような内容だったのですが、このシリーズを読み進めてみると、ローマ人も戦争ばかりしてるわけでもないことが分かります。特にカエサル以降。パクス・ロマーナ(ローマ平和)といって、平和を守り文化と経済の繁栄を目指した時代もありました。そりゃあ戦争ばかりじゃ金もかかるし国民も疲れるし、ローマ帝国が長続きする訳はありませんね。
しかし、それにしても素晴らしい本です。欧米人と関わる人は必読じゃあないかしらん。もちろんかかわらない人もね。これを読んで私は、大変遅ればせながらも、アメリカやEUの向かう方向が少し理解できたような気がしました。どうやら欧米人の考えの底流にローマ史があって、何がしかの影響を受けていることには間違いがなさそうだ。読んで楽しく、しかも勉強になり、教養も身に付く。実にいい本です。
塩野さんのスタンスがまた素晴らしい。暦史の教科書のような堅苦しさは一切なし。かといって司馬遼太郎のように歴史をマンガ化することもない。両者のいいとこ取りとでも申しましょうか。小説家(随筆家)として史実を描写するのですが、それが無味乾燥な歴史書でありえない豊かな文体となり、それに小説家だからこそなしえるファンタジーとロマンが適度に塩梅された考察が入る。ファンタジーという言葉を使いましたが、決して根拠のない妄想ではありません。深い人間洞察に裏打ちされた、リアリティのある人物描写です。ロマンの入り具合も絶妙です。感覚に流されていない。実にバランスが取れている。
塩野さん、自らが女性であるということをうまく利用し、恐らくは女性からの歴史観、皇帝観であることを、客観的に楽しみながら書いたに違いない。母として。あるいは妻として。そういう視点からあのような魅力的な皇帝像が生まれたのだと私は思います。
べた褒めです。本当にこれは素晴らしい本だと思います。