【この「プロジェクトの人間学」投稿シリーズは(後略) 初回投稿:はじめに(プロジェクトの人間学)】
提案力のない営業にほとんど存在価値はない。現状を説明する。さてどうしましょう。こんな会話をして顧客が怒らないのはエンジニアくらいだろう。顧客も結局エンジニアに意思決定を期待していないのだ。
現状こうです。課題はこれです。対応策は2つでそれぞれのメリットデメリットはこの通り。長期的視点からこの選択肢をお勧めします。
社会の一般常識からするとここまで提案できなければ、まともなSEとは言えないと筆者は考える。だって課題まで見えているのだから。課題が分かれば後はほとんど機械作業なのだ。営業は見えない課題まで発見し、顧客を説得せねばならない(もちろん接待で酒も飲まなければならない)。それに比べれば、まだ楽な話である。きちんと課題を定義しさえすればその課題は9割方解決したも同然なのだ。課題の定義を怠るのは思考停止に近い。
それにしても興味深いのは、頭がよいエンジニアでも自分で決断したり提案する能力に必ずしも恵まれている訳ではないということである。現状を整理する能力はある。筋道だって説明もできる。でも最後のセリフが「どうしましょうか」。「どうしたいの?どうあるべきなの?」と聞けばちゃんと答えが返ってくるから、別に考えていないわけではない。ただ決断を避けている。恐らく理由は二つある。一つは責任の回避である。もう一つが重み付け能力の弱さ。つまり、単に決められない。二つの同じ量が入った飼葉桶の前で飢えてしまうロバである。もっとも実際に飢えるのであれば決めるだろうが。
メンバーに責任を回避する傾向があるとすれば、リーダーに責任の一旦がある。責任はリーダがとる。それは正しい。だからといってリーダが1から10まで判断する必要はない。リーダーもメンバーに任せてしまえばよいのだ。それが出来ない。なぜか。リーダーの仕事がなくなるからである。細かいところもリーダが意思決定しようとする。
リーダが細かいところを決定するのもあながち悪くはない。リーダが細かいレベルまで把握できるし、リスクもリーダが取ることができる。しかしその結果メンバが萎縮してしまうようなことがあると、プロジェクトの生産性が下がってしまう。そこは注意が必要である。
重み付けにはセンスが必要である。何を選択するか。最終的には直感に依存する。プロジェクトにおける意思決定でいちいち投資対効果を定量的に計測するわけには行かない。判断のリスク、将来性、美しさ、好みといった定性的な質から決めてしまわなければならない。何でもよいから重み付けの能力は重要である。意思決定とその結果が全てである。プロセスが長ければ長いほど、悪い結果が起きる。結果を恐れて決められないのは、事態を悪くしているだけである。
重み付けの能力は残念ながら一朝一夕には身に付かない。たとえば美しさなど直観的、感性的要素から意思決定できるかどうか。単なる好みで選択できるかどうか。できない人はできる人よりも、人生から多くの時間が失われる。
決断とは自己の肯定であり将来に対する覚悟である。それができない人はつまるところ自己が肯定できないか覚悟ができない人である。残念ながら、この定義は多くのエンジニアの個性に当てはまるような気がしてならない。
適正なコストと時間を掛けるべき大事な決断がある。だがコストも時間も掛けすぎないようにしなければならない。いつまで待ってもどれほど努力しても全ての情報は集まらない。当りの番号を知ってから宝くじを買うわけにはゆかない。どこかで決断しなければならないのだ。
二つの選択肢に差異が無ければないほど、その選択は難しくなる。この法則を逃れるためには二つの選択肢に差異がないことが分かった段階でサイコロに決めてもらうことである。冗談ではない。本気である。実際、本当にどうでもよい意思決定に30分も1時間も時間がかかりかねない。その反対に重要な意思決定がろくに議論もされずになされることがある。しかもたいていは将来に悪影響を及ぼすことになる。違いが大きいため決断しやすいのだ。例えばある管理タスクをやるかやらないかの意思決定。やらない、という意思決定が難しいことは先に述べた。その理由からの管理タスクが始まる可能性が高い。そして将来余計な体力が発生し、現場に混乱と不平が生まれることになる。最初に気が付くべきだったのだ。だが、このような重要なタスクがマネージャやリーダの思いつきでいとも簡単に決まってしまうことが多い。
重要な意思決定からの疎外感。これもまたエンジニアの提案能力を削いでいる要因なのである。
だがエンジニアがプロジェクトで主要な役割を演じるためには提案能力は不可欠である。状況を判断し、自身の確信に則って顧客に提案しなければならない。もちろん顧客の言うことにも耳を傾けなければならないのは言うまでもない。さもなければ単なる独善となり、信頼感の醸成どころではなくなる。
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