2010年3月16日火曜日

中村逸郎「帝政民主主義国家ロシア〜プーチンの時代」岩波書店

★★★★★☆:読む価値あり。スリリングで面白い

良書です。プーチンのロシアが、市井の人々のインタビューとともにありありと迫ってきます。

今のロシアは、まさにカフカ的世界のようです。つまり最大限に非効率的な官僚主義。カフカの小説と異なるのは、ロシアの官僚が非効率的なだけではなく、腐敗している点にあるとすら言えます。また、既得権益層が頑張ったおかげでかつての社会主義的システムはまだまだ強固であり、官がダメなら民で、などという選択肢もない。官しかない。しかもその官が絶望的。非効率的な官によるサービスの独占。市民は悲惨な状況に置かれています。

具体的には、官僚が新興企業から賄賂を貰い、旧国有財産を安く横流ししたり、不透明な案件に税金を投入したり。しかも、市民が新興企業の活動で迷惑をこうむったと官僚に訴えても、当然なにもしてくれない。

他にも悲惨なのはロシアの居住環境。建物を診断する公的機関によって修繕が必要とされた、老朽化した公共アパートが、いつまでたっても修繕されることがない。暖房が壊れたまま、冬を越さざるを得ない人々。ロシアで、ですよ。室内でのマイナス5度や10度は当たり前。しかも、そのアパートは、何人もの家族が住んでいるにも関わらず、極めて狭く、トイレやキッチンは共用。住民同士はまさに一触即発の関係にあり、実際共同アパートでの殺人事件はよくあるという。

市民が当然受けられるはずの、生活に必須の公共サービスが、何年も棚上げされるのが当たり前になっていて、市民は諦めと怒りとともにその状況を受け入れている。

この社会環境で希望の矛先となっているのが、実行力があり、清廉なイメージを持つプーチンというわけです。官僚機構が絶望的であり、なにも期待できない。市民は最終的なよりどころとしてプーチンへの直訴に向かい、訴えることによって満足感を得る。でも、当然ながら実際には現状が改善されることはありません。実際、プーチンが清廉で公平で市民のことを優先して考えている証拠は、息のかかったマスコミから発信される情報以外はどこにもない。

プーチンの高い支持率が、実は危うい基盤に成り立っていることがよく分かります。そうだったのかロシア。スリリングで面白い本でした。

0 件のコメント: