2008年9月9日火曜日

手段と目的が逆転する(プロジェクトの人間学)

【この「プロジェクトの人間学」投稿シリーズは(後略) 初回投稿:はじめに(プロジェクトの人間学)

人が仕事するとき、常に手段と目的が逆転する危険がある。本来の目的が失われ、手段や組織の維持が目的となる。この例を上げるとすれば、わが国の官僚組織だけで十分であろう。

プロジェクトでも官僚組織ほどの規模ではないにせよ、同様に手段と目的の逆転が発生する。例えば以下のようなものがある。

-ツールとその目的
 何のためにツール(プロジェクト管理ツール、開発支援ツール)を導入したのか。
-障害対応とその目的
 何のために障害解析をしているのか。
-会議とその目的
 何のための会議か。
-成果物とその目的
 何のために作っているのか。

手段こそが目的となる。なぜそういうことになるのか。理由はいくつかある。忙しすぎて当初の目的を忘れてしまう。あるいは手段をもてあそんでいると仕事をしている気になり、不安がまぎれる。あるいは手段に集中していると楽しい。などなど。

手段と目的が入れ替わることで優先順位を見失う。本来リソースを投入すべき作業が後回しとなり手段に拘泥することになる。手段があったとして「何のために」が少なくとも2回問われなければならない。そしてそれをしなかったとしてどうなるのか、とさらに問わなければならない。

例にそって考えてみよう。プロジェクトの雰囲気がよくない。状況把握のためにメンバーの士気を調査しようとする。調査するためにヒアリングシートを作成、配布し、記入して貰う。そのヒアリングシートを元に面談をする。

以上、プロジェクトの現場をご存知ないマネジメントが思いつきそうなストーリーを例に見てみよう。「プロジェクトの状況を把握する」ためだけに、これだけのタスクが発生してしまう。コスト対効果を考慮して諦めるか別の方法を検討する方が正しいように思われる。少なくとも筆者ならそうする。しかし、プロジェクト運用を指南した書籍には副作用や体力を一切考慮せず山ほど体力と時間をかけてプロジェクトの状況を把握させようとするものがある。ここではマネジメント層がこのストーリーを採用し、実行に移したとしよう。このタスク群の中に多くのトラップがあることに気が付いて頂きたい。

1. ヒアリングシートの作成が目的となってしまう
ヒアリングシートの作成に無駄な体力を掛けてしまう。最初の目的からすれば面談の取っ掛かりになればよいはずである。それは最低限の基準かもしれないが、最低限の基準だからいけない、ということはない。コストを掛けても掛けなくても効果がさほど変わらないのであれば、コストを掛けない方がよい。その意思決定が出来るかどうか。

2. ヒアリングシートの記入が目的となってしまう
今度はヒアリングシートを展開された側の話である。本来の目的は面談のネタだったはずのヒアリングシートであるが、記入が依頼されたが故にヒアリングシート用ストーリーの作成に体力が掛けられてしまう。

3. ヒアリングシート(面談結果)の分析が目的となってしまう
なぜ山に登るのか。そこに山があるからだ。なぜ分析するのか。そこ数字があるからだ。ある種の人間は、数字を見るとどうしてもグラフを書いたり分析したい衝動に駆られてしまうらしい。だがデータが存在するからといってそれを分析してもよい、ということにはならない。

4. 面談プロセス自体が目的となってしまう
プロジェクトの状況を把握する当初の目的が忘れられ、面談自体が問題となる。「あーよい面談だった」で終わってしまい、付け刃的なアクションプランが取られる。当然効果はない。一時的に親交が深まったかもしれない。でも、ただそれだけ。最初に目的を措定した段階で、次のアクションまでの射程を持っておくべきであった。

手段と目的の逆転は上記に限らない。全ての作業/成果物が逆転し得る。

コスト対効果をちゃんと考慮すればよいなどという単純な話ではない。いちいち細かい意思決定にコスト対効果を考慮する時間などない。そしてタスクというものは一度走ってしまうと、止められなくなってしまう。細かいタスク一つ一つについて、手段と目的を意識するべきである。

例えば上司やマネジメントから作業指示を受けたとしても、必ず最初に目的を明確にしてから指示を受けた方がよい。特に彼らは思いつきで「それっぽい」だけのタスクを思いつきがちだからである。「それは何のためですか?」「とすれば最終的にはこうなることを目的としているわけですね?」「目的からすると成果物はこういうトーンでまとめる方向ですね?」。そしてたたき台として8割型の完成度のものをレビューしてもらう。受けた指摘を修正し、9割5分の出来まで完成、タスク終了となる。上司(マネジメント)の指示だからといって絶対視する必要はない。

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