2008年5月29日木曜日

「障害を許さない」プロジェクトが破綻する理由(2)

■「障害を許さない」スローガンの分析

ではなぜ障害は好ましくないと考えてしまうのでしょうか。今回は少し毛色を変えて「障害は許さない」という精神状態について分析してみましょう。

まず障害とは何でしょうか。

「常に予定外の出来事として発生するもの」
「通常の運用や業務を阻害するもの」
「不安を呼び覚ますもの」

「上司の思いつき」というのも一種の障害であることがよく分かりますね。
障害の原因という観点から整理してみましょう。

「ハードウェアの故障」
「ソフトウェアのバグ(時限系/タイミング系)」
「ソフトウェアのバグ(設計ミス)」
「ソフトウェアのバグ(ロジックの問題)」
「設計書のミス」

一次的にはそんなところでしょうか。

原因追求についてもう少しレベルを深くしてみましょう。
われわれ人間には実にさまざまな愛すべき欠陥があります。

「コミュニケーションミス」
「単純作業ミス」
「勘違い」
「思い込み」
「忘却」
「理解不足」

整理すると「人間の欠陥により」⇒「ハード/ソフトに欠陥が生じ」⇒「それによって予定外の通常業務を妨げる事象が発生し、不安を呼び覚まされる」ことが障害である、と言えます。

しかしこうしてみると「なあんだ。障害が起こるのなんてあったりまえのことじゃないか。所詮は人がやることでしょ」というふうに見えませんか?見えない?それは困った。

以上の文脈から言えば「障害が許せない」という人は「人間は確かに誤りを犯す。しかし障害は許せない」という考え方を持っていることになります。この考え方を二つに分けてみましょう。

(1)「自分のことはさておき他人の起こした障害は許せない」
(2)「自分の起こした障害だからこそ許せない」

(1)について。まあ確かに(例えば、ですよ)原子力発電所の運用をおろそかにされたりすると、これはちょっとけしからんと私でも思います。他人の安全を守るような仕事はきっちりやって頂きたい。
これを「他者糾弾タイプ」と定義します。

(2)は少し気の毒な考え方ですね。これを生真面目につきつめる人はうつ病まっしぐらかもしれません。適度な責任感を持って頂きたい。
こちらを「自己破滅タイプ」とします。

両者の資質を併せ持っているのが普通だと思います。後はそれぞれの傾向が強いかによってその人の性格を定義できるのではないでしょうか。

順列組み合わせによって4つのタイプが存在します。
タイプA【前者が強く、後者が弱い】
 ⇒ 自分のことは棚に上げて人のことをあれこれ言いつらうタイプ。
B【前者が強く、後者も強い】
 ⇒ 自分にも他人にも厳しいタイプ。
C【前者が弱く、後者も弱い】
 ⇒ テキトーな感じ。
D【前者が弱く、後者が強い】
 ⇒ 気の毒な感じですね。周りから利用されそう。

残念ながら悲惨なプロジェクトを推進する人には(また出世する人には)AやBのタイプが多いような気がします。いずれにせよある意味で正義感が強く、間違ったことが許せないタイプと言えるでしょう。こうしてみると、プロジェクトがどんどん悲惨になって行くのもむべなるかな、という気がしないではありません。恐らく短期的には「失敗が許せない」と胸を張っていうような人こそがはびこり「だって人間だもの」と弱々しい声でつぶやく人はどんどん駆逐されてゆくでしょうから。

とまあ今回はなんだか救いのない話になりましたが、実は私は希望を失っていません。短期的には他者糾弾傾向の強い人が幅をきかせるかもしれませんが、そのような人がプロジェクトを破壊する可能性もまた高い。長期的には妥当な判断が出来る人が成功すると私は信じています。

次回は「不安」という観点から「障害を許さない」というスローガンについて考えてみたいと思います。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

精神論的な分類で、面白い内容でした。
ですが、世代交代と確率論から、CとDは浮かばれない可能性が高いと思います。
つまり、AやBが失敗して退場するのは、確率的な話になります。次の世代にAやBの後継者がいると、CやDが日の目を見ることはありません。
まあ、CやDが失敗した場合の損害も少ないのでしょうけど。
ハイリスク、ハイリターンですね。