2010年3月5日金曜日

「ゴルバチョフ回想録(下)」工藤精一郎・鈴木康雄訳 新潮社

★★★★★☆:必読かも

下巻の最初の三分の一は、冷戦終結と軍縮のための輝かしい外交活動。各国でのゴルバチョフ人気が伝わってきます。軍縮のためのゴルバチョフの努力は感動ものです。

それに比べてアメリカ(レーガン、ブッシュ父)の消極的さは、これを書いたのがゴルバチョフだということを考慮に入れても、呆れるほどです。

ゴルバチョフの提案はとにかくまともです。当たり前のことを言ってます。山ほど核ミサイルを持っていてもしょうがない。というか地球を何度も破滅させるような戦力を持ってのにらみ合いなどむしろ狂気の沙汰。だから攻撃のための戦力を、お互い検証可能な方法で削減しましょう。

確かにソ連の書記長が軍縮を言い出したら、その意図に疑いを抱いて当然なのかもしれませんが、アメリカの否定的態度はどうもそれだけが原因ではない。それでゴルバチョフがいろいろ情報を総合してみると、どうやらアメリカの軍需産業関係のロビイストたちが軍縮に反対し、レーガンやらブッシュに圧力をかけていた模様だとのこと。

軍需産業の、そして自分たちの利益のためなら、地球全体の破滅というリスクをも恐れない。それがアメリカ強欲主義というわけです。恐ろしや。

この本の次の三分の一は、各国首脳との交流の回想録。サッチャーやチャウシェスク(並列にするのも申し訳ないけど)の記述が興味深い。日本では中曽根と海部が出てきました。しかしプレゼンスがない。やはりソ連にとっての日本は、政治的には極東のアメリカ出張所。どうしても二番手、三番手に甘んずるようです。日本人の北方領土への情緒的思い入れも理解していなかった様子。北方領土が返還されればロシアの好感度はものすごくアップするのに。プーチンさんにも期待したいのですが、彼らの目はどうしても東欧諸国、西欧諸国の方に向くようで日本にまではなかなか届かない。日本にとってもアメリカ中国が最重要ですから、ロシアまでには気が回らない。うまくいかないものです。

それから中曽根は日本にしてはそこそこキャラが強い総理だったわけですが、海外のトップから比べるとその存在感が薄いと言わざるを得ない。日本の総理や内閣は、アメリカや官僚や大企業のひいたレールを粛粛と進むものであるからして、誰がやってもほぼ同じ。強力な総理がいる必要はない。という考え方もありますが、外交の観点からすると寂しい気がします。

残りは各共和国の乱立とエリツィンたちの共和国独立宣言、そしてソ連が崩壊、ゴルバチョフの大統領辞任に至るというソ連激動の一年。圧巻でした。

まあとにかく凄い本でした。十分冊くらいの文庫版が欲しいところです。

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