2009年12月1日火曜日

立花隆・佐藤優「僕らの頭脳の鍛え方」文春新書

★★★★☆☆:読書オタク

活字中毒たちの愉快な対談でした。二人ともすごい量の本を読んでます。紹介される本に癖があって面白いです。個人的には近代日本史や自然科学系の本を紹介していた立花さんのリストが気にいりました。佐藤さんのリストはややディレッタントっぽい印象かな。

面白かったのはカントの「純粋理性批判」についての対談。立花さんはカントの認識論はもはや読むに値せず、という立場。空間時間が直観の形式だとか、カテゴリーだとかは現代の科学では通用しない。佐藤さんはその逆。カント的な考え方は今でもバランス感覚のある常識として通用する。

個人的には佐藤さんに軍配ですね。立花さんの言うことは正しいんですが、意見としては大学生レベル。純粋理性批判の最初の六分の一を読めば誰だってそう思う。それ故にある意味では妥当な意見とも言えるんですが、この著作をせっかく読むならもう少し深読みしたい。カントの思想はキリスト教と科学を共存させる見事なフィクション。見事というのは論理的に破綻していないだけではなく、そこにバランスが欠けていないから。佐藤さんからは純粋理性批判の表面的な解釈だけではなく、本質にまで踏み込もうとしている姿勢が伝わってきて好感が持てました。まあ、言ってみればキリスト教系文系虚学系人間と理系実学系人間の違いなんですがね。

ちなみに私は残念ながらカント読むに値せず派。純粋理性批判を読むよりフッサール読むべし。現代の我々が取り組んでも、そりゃあそれなりに得るものはありますけど、費用対効果で疑問だから。難し過ぎ。純粋理性批判を読んでビシビシ伝わる人は対象外だけどね。

対談は立花さんが重鎮という感じでどっしりと構えていて、そこに気鋭の佐藤さんが絡むという感じで読み応えあり。彼らの知識欲やパワーにあてられて多少の胸やけも感じますが、とにかく一線にいる人というのはたいしたものだなあ、と感心しました。

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