2009年12月28日月曜日

塩野七生「マキァベッリ語録」新潮社

★★★☆☆☆:読みやすくて面白いけど、相変わらずマキャベリがそんなにスゴイとは思えない

塩野さんの前書きを読んで岩波の君主論がいまいちピンとこなかった理由が分かりました。君主論に出てくるイタリア史の事例は、普通のイタリア人にとっては常識に近いんですね。日本人でいうなら織田信長とか坂本龍馬とか、その位の有名人について書いてあるのだと。

それを私のような歴史に疎い人間が読んでわかるわけがない。だから親切にも岩波文庫で大量の注(本編よりも長い)が記載されているわけですが、数行から数十行の注程度の説明でイタリアの織田信長が理解できるわけがありません。だからせっかくの注も結果的には中途半端な情報にならざるをえず、こちらの読書のリズムを乱すばかり、というわけです。だったらいっそのこと箴言形式で書き直してしまったというのがこの本です。

するとあら不思議。君主論をそのまま読むよりも分かりやすく、しかもより気が利いてるようにみえる。岩波の歴史補注はむしろ邪魔であったか。面白いものです。

この本の狙いは妥当だったし、成功もしていると思うのですが、やはりマキァベッリの書くことがそれほどすごいとは思えませんでした。思わずニヤリとさせられたり、そうだよなあ、と感心させられたことは確かですけどね。でも凄みまでは感じられない。ある意味真っ当というか、常識の範疇ではないかな、と思いました。多少なりとも皮肉な見方をする人なら、マキャベリならずとも普通に考えることじゃないかしらん。

今の私が一番ニヤリとしたのが次の文章。

困難な時代には、真の力量をそなえた人物が活躍するが、太平の世の中では、財の豊かな者や門閥にささえられた者が、わが世の春を謳歌することになる。

そうだろうな。自民党のお偉方の顔ぶれを思い起こしてニヤリとする人は私だけではないはず。

後は、多少恩を売ったり、赦したりしたとしても、一旦買った怨みは消えやしないよ、といった旨の警句とか、民衆の本質をついた警句とか。気が利いた警句が詰まっておりました。人を信じ過ぎて痛い目に会いそうな時に読み直すといいかも。

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